世の中のエネルギーの流れ

下図は, 2011年の米国におけるエネルギーの流れを示しています (https://flowcharts.llnl.gov).最終的に60%近くのエネルギーが有効に利用されずに捨てられています.捨てられるエネル ギーの大部分は「熱」です.したがって,熱をいかにマネージメントするかは,エネルギーを有効に利用するために非常に重要です.


熱電変換とは

熱電材料は廃熱から電気エネルギーを生産できる優れた機能をもっています.今日の エネルギー問題解決のために,今後益々重要性を増すと考えられます.下図は熱電変換の原理を説明しています.


熱電半導体材料に温度勾配を与えると,低温度側にキャリアが集まり電位差が生まれ ます.これがゼーベック効果と呼ばれ,温度勾配から電気をつくるのに利用できます.逆に電流を流すと温度勾配を生む現象はペルティエ効果と呼ばれ,小型の 冷却装置として応用されています.

熱電変換デモ

ゼーベック効果
ペルチェ効果

熱電変換のこれから

熱電材料によるエネルギー変換は,可動部がなくメンテナンスを要さないという特徴 があります.原子力電池と呼ばれる放射性同位元素の崩壊熱を熱電材料で電気に換える装置は,宇宙空間や僻地での発電に利用されてきました.たとえば, 1977年に打ち上げられたボイジャー1号,2号は,2013年9月にNASAが発表したように既に太陽系外を旅しています.現在でもなお情報を地球に発 信し続けており,使用している原子力電池の信頼性の高さを証明しています.

また,熱電材料は小型であり静謐に動作するという特徴もあります.この特徴は小型の冷却装置(小型冷蔵庫や局部冷却器)に生かされています.


熱電変換がエネルギー問題の解決の一助となるためには,現在捨てられている大量の 熱を電気エネルギーとして回収できるシステムが普及することが必要です.例えば,自動車における廃熱を利用した発電システム,あるいは廃棄物燃焼炉からの 廃熱エ ネルギー回収への利用などが検討されています.今後廃熱発電デバイスが広く普及するためには,有害元素を含まず安価な熱電材料の開発と発電効率の向上とい う二つの課題を克服しなければなりません.

熱電変換効率

熱から電気への変換効率の最大値 ζmax は,次式で表されます.
                                                                                   (1)
ここで,TH, TL はそれぞれデバイスの高温側,低温側の温度, は平均温度 (= (TH+TL)/2) です.Z は熱電性能指数と呼ばれ次式のように S (ゼーベック係数),σ (電気伝導率),κ (熱伝導率) で表されます.
                                                                                   (2)
ζmax Z の単調増加関数ですの で,変換効率の向上のためには Z を増大させる必要がありま す. Z は上式からわかるように材料に依存するため,大きい Z を示す熱電材料の開発が望まれます. 式 (2) に温度 Tをかけた ZT は無次元量となり無次元性能指数と呼ばれます.現状で高い性能指数をもつ材料 (ZT = 1 とする) では,カルノー効率 (式 (1) の (THTL)/TH の部分) が 0.5 (例えば TH = 600 K, TL =300 K) の条件下で効率は0.11 と計算されます.熱伝導率 κ は,電子成分 κE と格子成分 κL の和であり,κ = κE + κL と書けます.ヴィーデマン-フランツ則により,熱伝導率の電子成分 κE は電気伝導率 σ と比例関係にあり κE = LσT (L はローレンツ数) と書けます.これらの関係を使うと,無次元性能指数は
                                                                                                                                        (3)
と整理することができます.ローレンツ数は自由電子近似で 2.44×10-8 WΩK-2 であり,実際の物質ではこれと異なるものの大きくは違いません.したがって,ZT を大きくするには,大きなゼーベック係数 S を与える電子状態を有する物質において,κLE ができるだけ小さいことが求められます.そこで,大別すると大きなゼーベック係数あるいは大きなキャリア易動度を得るための研究と,格子熱伝導率を低減さ せる研究が行われています

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