ナノ構造化バルク熱電材料

熱電変換効率を上昇させるためには,高い熱電性能指数をもつ熱電材料を開発する必要があります.熱電性能指数を向上させるための有効な方策の一つは,格子熱伝導率を低下させることです.私たちはそのための材料組織制御を行っています.


フォノン散乱促進による格子熱伝導率の低減

格子熱伝導率は,kL = 1/3Cvl と表されます.ここで,C は比熱,v は音速,l はフォノン (格子振動の伝搬を担う量子) です.l はフォノンが何かに衝突して (散乱され),その次に衝突 する (散乱される) までの距離です.フォノン散乱にはさまざまな様式があります.kL を低下させるためには,例えば,不純物原子や粒界・異相境界などの界面の密度を増加させ,l を小さくすることが有効です.



相変態を利用した熱電材料のナノ構造化

固相相変態を利用すると熱電材料をナノ構造化し,熱伝導率を低下させることができます.左図は,Pb2Sb6Te11 → PbTe (明るい相) + Sb2Te3 (暗い相) という反応 (共析反応) を用いて,ナノ構造をもつ熱電材料を作製した例です.

固相相変態を用いたナノ構造は,状態図を詳細に調べれば,相変態理論 (熱力学,カイネティクス) をベースに精密に制御することができます.




別の例として,固相析出反応 (PbTe → PbTe (明るい相) + Sb2Te3(暗い相)) を利用したナノ構造化によって,格子熱伝導率が低減されることがわかりました.









高エネルギー非平衡プロセス

体積あたりの異相界面積は材料の熱電特性に重要な影響を及ぼします.私たちは平衡状態図に左右されずに相変 態により熱電材料にナノコンポジット構造を導入する新しい方法—高エネルギー非平衡を介するプロセス—を提案しています.組成範囲が狭い「ラインコンパウ ンド」には特に有効で,高い非平衡性を利用して強制固溶体を生成させます.大きな相変態の駆動力は「シングルナノ」オーダーの微細構造の形成を実現しま す.

参考文献

1. N.A. Heinz, T. Ikeda, Y. Pei, G.J. Snyder, Quantitative microstructure control in bulk thermoelectric composites, Adv. Funct. Mater., 24 (2013), 2135-2153.
2. T. Ikeda, L. Haviez, Y. Li, G.J. Snyder, Nanostructuring of thermoelectric Mg2Si via a nonequilibrium intermediate state, Small, 8 (2012), 2350-2355.
3. T. Ikeda, N.J. Marolf, K. Bergum, M.B. Toussaint, N.A. Heinz, V.A. Ravi, G.J. Snyder, Size control of Sb2Te3 Widmanstätten precipitates in thermoelectric PbTe, Acta Mater., 59 (2011), 2679-2692
4. T. Ikeda, L.A. Collins, V.A. Ravi, F.S. Gascoin, S.M. Haile, G.J. Snyder, Self-assembled nanometer lamellae of thermoelectric PbTe and Sb2Te3 with epitaxy-like interfaces, Chem. Mater., 19 (2007), 763-767.


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