バルク材料のコンビナトリアル法

さ まざまな材料の研究が現在成熟の域にあり,研究対象には構成元素の多い複雑な材料系が含まれます.広大な組成空間で多くの試料を作製する手間を省き研究の 効率を上げるため,固体材料に関しては組成傾斜をもつ薄膜を作製し特性を位置 (組成) の関数として測定する「コンビナトリー法」が用いられるようになってきました.しかし,バルクと薄膜では組織が異なり,それが特性に大きく影響する場合が あります.私たちは「バルク材料のコンビナトリー法」を実現するため,一方向凝固により意図的に組成を傾斜させた試料を作製し,ある程度の空間分解能 (1 mm 程度以下) の特性測定と組み合わせることにより,状態図-組成-組織-特性間の相関の研究に役立てることを試みています.この方法では次のような情報が得られます.

   状態図・ナノ構造探索
      定量的情報
       不変系反応組成 (最大固溶度,共晶組成,包晶反応組成など)
      定性的情報
       凝固反応の種類 (未知の相発見の可能性)
       固相反応の種類 (析出,共析など)
       単相育成
   コンビナトリー型研究 “状態図-組成-組織-特性間の相関”
      材料組織の組成依存性
      材料特性の組成依存性


ブリッジマン法による一方向凝固

一方向凝固法には,いくつかの方法がありますが,ブリッジマン法とは,炉の中で材料を溶融し,試料または炉を移動させることによって,試料を片側から徐々に凝固させる方法です.主に単結晶 (あるいは柱状晶) の製造に用いられます.

本研究では,これを組成傾斜材料の作製に用います.大きな温度勾配下で,非常に低速度で試料を凝固させると,下のような組成傾斜試料を作ることができます.









組成傾斜材料

左図 のような典型的な共晶状態図を示す系の例を考えます.初期濃度を C0 とすると試料の先端が液相線に到達したとき,初晶として kC0 の濃度の溶質を含む α 相が晶出します.固相 α 中の溶質濃度は初期濃度より小さいので,溶質は液相に排出される.左図 の状態図では,液相に平衡する α 相の溶質濃度は液相より常に低いので,溶質は液相中に排出され続け液相の溶質濃度は凝固が進むにつれだんだんと高くなっていきます.それに伴い,晶出する α 相の溶質濃度も上昇します.液相組成が共晶濃度 CE に到達すると共晶凝固が始まり,それ以降は液相・固相組成は変化しません.得られた試料の共晶組織の平均組成を測定すれば,共晶組成 CE が決定され,共晶組織中の α 相,β 相の組成を測定すれば α 相中の B の,β 相中の A の最大固溶度が決定できます.α 相中の B の最大固溶度は共晶凝固が始まる直前の α 相領域の組成からも決定できます.また,試料中の材料特性 (例えば,電気抵抗) を試料中の位置の関数として測定すれば,その特性の組成依存性が分かります.



特性分析

組成傾斜をもつ試料を準備し,走査電子顕微鏡などで組成勾配方向に組織観察を行え ば,材料組織の組成依存性を知ることができます.また,非破壊で特性測定を行えば,前述の組織観察結果とあわせて,化学組成や材料組織が調べたい特性にど のようなインパクトをもつかを手っ取り知ることができます.すなわち,化学組成-材料組織-特性間の相関の情報が得られます.

左図 (上) は,PbTe-Sb2Te3-Ag2Te 擬三元系の材料組織マッピングの例です.PbTe と AgSbTe2 の間の組成において変調構造が発見されました.

左図 (下) は,PbTe-Sb2Te3-Ag2Te 擬三元系のゼーベック係数のマッピングです.このように,少ない数の試料から連続的な特性の組成依存性の情報を抽出することができまます.


参考文献

1. 池田輝之,太田弘道,バルク熱電材料への「ハイスループット (high-throughput)」なアプローチ,金属 83 (2013), 870-876.
2. T. Ikeda, S. Iwanaga, H-J. Wu, N.J. Marolf, S-W. Chen, G.J. Snyder, A combinatorial approach to microstructure and thermopower of bulk thermoelectric materials: the pseudo-ternary PbTe-Sb2Te3-Ag2Te system, J. Mater. Chem., 22 (2012), 24335-24347.


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